誰に頼まれるわけでもなく永田はまたしてもぶっ倒れて天を仰いでいる。体内では永田の赤血球が永田が走り回ったが故にブラック企業社員のごとく酸素を一生懸命全細胞に向けて慎ましく運んでるんだなぁと考える冷静な一面は残っている。
なんで永田は休みの水曜日をわざわざ走る事に使うのだろうか。なんてことを頭の片隅に浮かんでは蓋をしてスタート地点に向かっていく。次は6本目だ。当初イメージしていた未来とはだいぶ異なる状況だが、身体を屈め一歩目を踏み出した。
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例の如く前日に母校のコーチに連絡を入れた。「明日もよろしくお願いします。」恥ずかしながらこの1週間は治療に行けておらず、毎日のストレッチでしかケアが出来ていない状況だ。昔はそんなこと一切気にも留めていなかったが今となっては怪我する気配が身体からぷんぷんと匂ってくる。
この1週間といえば前回7kgのウェイトジャケットで感じた課題を潰すために、ウェイトの種目をスクワットからデッドリフトに変更した。先週実際に走ってみて上半身の弱さを感じたからだ。デッドリフトは重さを上半身で受けたうえで床を踏まなくてはならない。今の課題を潰すならスクワットよりもデッドリフトの方が解決に結びつきやすい。
そのように日々練習で感じた課題を1週間かけて考えなくてはならないのだ。身体はいつだって答えを教えてくれる。
そんな3月23日は少し肌寒く北風が吹いていた。
MBを使い色んな動作でW-UPを済ませると「今日はマーク走の後にテンポ走で締めよう」と。先週のジャケット走を思うと肩透かしをくらった気分だったが自身の課題を見つけるための楽なメニューなんて基本的にはない。ここで楽なメニューだと想像する時点で課題も同時に放棄するということだ。
メニューの概要は120mのマーク走。…ほらね、マーク走と120mって両立するんですか? って話ですよ。ならば120mと言ってほしいくらいだわ。メニュー表にポテトサラダと書いてあるのにポテトサラダがハンバーグに乗っかっているような感覚だ。だったらハンバーグって書いてくれ。
マークを置く位置は2区画。スタートから40mほど走った位置に8台(1区画目)、20mほどフリーランを行い、80m付近に8台(2区画目)残りの20mもフリーラン。大事にしなくてはならないのは何よりも姿勢だ。コーナーから走り始めて前傾を取りすぎていると1区画目で良い姿勢が作れず、120m走るだけになってしまう。何よりも1台目に入る姿勢が肝になってくる。それさえできればフリーランも2区画目もオートマチックに踏むだけだ。
そしてここにも罠がある。良い動きができればスピードが勝手に上がるので内臓にダメージがくるのだ。400mHの選手から聞いた言葉を思い出す。「レース中はリズムやハードルでオートマチックなのでそれほどキツくないんすよ。ただ走り終わった直後から心臓や肺のダメージを時差で感じるんです。」…これか。おそらくそれに近い感覚であろうものが永田に襲ってくる。
1本1本走り終わるごとに視界が掠れ脳から血の気が引くのを感じている。5本目が終わる頃には膝に手をつき肩で息をしている。マーク走とは…。今まさにマーク走の概念がぶっ壊れている。それはポテトサラダの概念がぶっ壊れるのと同じだ。
そして誰に頼まれるわけでもなく永田はまたしてもぶっ倒れて天を仰いでいる。体内では永田の赤血球が永田が走り回ったが故にブラック企業社員のごとく酸素を一生懸命全細胞に向けて慎ましく運んでるんだなぁと考える冷静な一面は残っている。
なんで永田は休みの水曜日をわざわざ走る事に使うのだろうか。なんてことを頭の片隅に浮かんでは蓋をしてスタート地点に向かっていく。次は6本目だ。当初イメージしていた未来とはだいぶ異なる状況だが、身体を屈め一歩目を踏み出した。
ここまでくるのに色んなアドバイスを頂いた。「スタート位置を一足下げてしっかり踏んで1区画目に入ろう。下げる分走ってはダメ。あくまで今のリズムのスケールを上げるだけ。それができればフリーランも2区画目ももっと良い動きができる。」…試されてんなぁ。言わんとすることは大いに理解できる。しかし6本目、さっきまで赤血球のことを考えていた状態だ。身体は万全ではない。ここにきて理想を突きつけてくる。
シンプルに言えば「同じリズムで大きく」
幸い1区画目は届いた。がしかし、フリー区画で反動が出て一歩だけ腰が落ち踏み込めないものが存在した。その結果2区画目に入る際、大股で飛び込んでしまった。…もう動きはガチャガチャと崩れ姿勢は取れず溺れるようにフィニッシュをした。痛恨のミス。その1歩が分かれ目である。その1歩が競技にとって命取りである。
泣きの一本を行いたいところだが、泣きの一本こそ弱いものの象徴。泣くくらいなら最初から決めろ。決められない方が悪い。今のミスは課題なのだ、一本追加して無かった事にするわけにはいかない。次に考えるべきことは今の踏めなかった1歩ではない。120mのT.Tだ。
しっかりと休みを取ったあとマーク走の意識の下走り出した。走れどもコーチの場所まで遠い。結果は測定不能。なんてこったい! コーチとのディスコミュニケーションにより、永田はスタート地点を下げ、コーチもゴール地点を下げていた。つまりそれは120mより長くなりおそらく150mくらい走っていた。長いわけだよっ。
これが噂の約150mT.T
後半は距離の長さに絶望し脚が回っていない、というより120mのつもりで走っているのだから回るわけがない。
しかしまた今回も課題を発見し、次回見てもらうときには先週より良いじゃんを貰いたいが故に水曜日に走っているのだ。なんて承認欲求が強いのか。でもそれは悪いことではないし誰に迷惑をかけているわけでもない。これは永田の癖であり永田自身も受け入れなくてはならない。
そしてまた課題を見つめ潰すための7日間だ。
ではまた次回っ
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